我々は、ナルコレプシー患者のほぼ全員でHLAクラスII抗原のDR2、Dw2が陽性であることから、HLA遺伝子と連鎖不平衡にある近傍の遺伝子変異について検討してきた。最近、HLA近傍に遺伝子が存在するTNF(tumor necrosis factor)αが、ナルコレプシー患者の血中で有意に増加している(Vgontzasら1997)こと、TNFα産生阻害薬がナルコレプシーにおけるカタプレキシーを悪化させること(神林ら1996)などが相次いで報告されたことから、TNFα遺伝子に遺伝的な異常が存在するかどうかについて、SSCP法を用いて検討した。対象は、東京大学医学部附属病院または神経研究所晴和病院に通院中で、HLAタイピングが行われ、DR15が陽性であったナルコレプシ-患者92名及び、HLAタイピングの行われていない正常対照群91名である。うち8名ずつにおいてSSCPによる検討を行った。末梢血より抽出したDNAを用い、標準的なPCR反応により、TNFαプコモーター領域およびニクソン、イントコンの全長を、300〜500塩基対の12断片に分けて増幅した。これらのPCR産物を、グリセロールを含む5%ポリアクリルアミドゲルにて、4度の冷却下で、30W4時間で電気泳動した。すべての断片はグリセロール5%および2.5%の2条件で電気泳動を行った。ゲルは銀染色により染色した。今回検討した12断片のうち、プロモーター領域に存在する、塩基番号-20〜306の部分のみに多型性が認められた。シーケンスの結果、これはC-850Tという未報告の多型であることが判明した。この多型について、ナルコレプシー患者92名及び対照群91名において、制限酵素切断片長多型(RFLP)法を用いて、遺伝子型の比較を行ったところ、遺伝子型の分布に有意な差は見られなかった。これらの結果は、TNF遺伝子の異常がナルコレプシーの原因となっている可能性はきわめて低いことを示唆している。
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