本研究の目的はアルツハイマー病にみられるミオクローヌスの責任病巣の解明であり、精度の高い3次元画像解析装置を用いてミオクローヌスを伴うアルツハイマー病の小脳歯状核の神経細胞の密度や形態学な変化を明らかにすることである。 平成10年度の研究実施事項:平成9年度に用いた同じ対象(ミオクローヌスを伴うアルツハイマー病8例、ミオクローヌスを伴わないアルツハイマー病10例、正常対照老人9例)の剖検脳の小脳歯状核を含む小脳半球矢状断組織の厚さ20μmのNissl染色標本をを用いた。前年度はKinetic Image社製、stereologyシステムのdisectorプローベを用いて、歯状核の神経細胞密度は吻側部から尾側部まで連続的に測定したが、今年度は、倍率100倍の対物レンズを用いて、顕微鏡に接続されたテレビカメラを通して映し出されるモニター上、同stereologyシステムのpoint sample intercept estimater(PSI)プローベを用いて、吻側部と尾側部においてそれぞれ大型細胞と小型細胞を区別してその平均体積を計測した。 結果:ミオクローヌスを伴うアルツハイマー病群の大型細胞の平均体積は吻側部でミオクローヌスを伴わないアルツハイマー病群に比べて有意に大きかった。逆に、吻側部の小型細胞の平均体積はミオクローヌスを伴うアルツハイマー病群ではミオクローヌスを伴わないアルツハイマー病群に比べて有意に小さかった。 考察:昨年度と今年度の検討の結果を総合すると、アルツハイマー病のミオクローヌスの発現には歯状核の大型および小型神経細胞の数の不均衡に加え、大型細胞の腫大と小型細胞の萎縮という、歯状核神経細胞の形態学的変化が重要であり、ミオクローヌスの病理学的背景であることが明らかになった。
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