われわれは、覚醒剤精神病の発現機序として、覚醒剤のフリーラジカル産生を介した神経傷害仮説を検証するため、本研究を施行している。 まずWistar系雄性ラットに覚醒剤(6mg/kg)を単回腹腔内投与し、線条体における過酸化水素の生成が増大することを確認した。過酸化水素は覚醒剤投与時に放出が増大するドーパミンが代謝される際に生成する、フリーラジカル産生系の最初の活性酸素であり、鉄等の遷移金属の触媒作用を受けてヒドロキシルラジカルに変化することによって強い細胞傷害作用を発現する。過酸化水素は脳内に埋め込んだ微小電極を用い、ダブルパルス・アンペロメトリー法によって計測した。単回の急性投与時には、過酸化水素の生成の増大は、覚醒剤投与後直ちに始まり、60分後にほぼ元のレベルに復している。しかし、初回投与から2日後に覚醒剤を再投与すると過酸化水素の産生は120分経過後も増大を続け、その濃度は単回投与時の4-5倍に達することが観察された。また、この覚醒剤再投与による過酸化水素産生の促進は、10日後に再投与した際にも認められ、しかもこの時の過酸化水素の産生は2日後に再投与した際よりも大きかった。これらの事実は覚醒剤の反復投与によって、単回投与時よりもより大きく、持続の長い過酸化水素の生成が起こることを示しており、より強い神経細胞傷害が生じることを示唆している。今後は覚醒剤の反復投与回数を増やし、またミニオスモティックポンプによる持続投与後の過酸化水素の産生もあわせて検討してゆく予定である。
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