まずわれわれはインビボ電極法による生体内過酸化水素計測法を確立し、ドーパミン神経の傷害を起こすことが報告されている量のメタンフェタミン(MAP)を7日間持続投与した後にも、MAPの急性投与による過酸化水素の産生量に差が認められないことなどを示唆する結果を得た。これらの結果から、MAPの慢性使用が神経細胞に強い傷害を生じさせ、ドーパミン神経に傷害が生じた後でもMAPの再使用によって大量の過酸化水素が発生し、神経傷害をさらに進展させる可能性が示唆された。 また、NMDA受容体の非競合的アンタゴニストであるMK-801は、MAPと同時投与することにより、MAPの反復投与による逆耐性の形成を抑制する。このことから、NMDA受容体を介した情報伝達が、精神分裂病再燃のモデルと考えられるMAPによる逆耐性形成に深く関与していることが推測される。一方、MK-801の同時投与はMAPの急性投与によるドーパミン神経の傷害を抑制しないことが報告されている。MAP投与による神経傷害は、過剰放出されたドーパミンが代謝される際に放出される過酸化水素の神経毒性に起因すると考えられる。そこでわれわれは、MAP投与による過酸化水素の産生がMK-801の前投与によって影響を受けるか否か、およびMK-801の単独投与が過酸化水素濃度を変化させるか否かについて検討した。 その結果、MK-801の同時投与は、MAPによるラット線条体における過酸化水素濃度の上昇を抑制しなかった。また、MK-801の単独投与により、同部位で過酸化水素濃度が用量依存的に上昇することが明らかとなった。レセルピンによる前処置が、MK-801による過酸化水素濃度の上昇を抑制したことから、MK-801投与により増加した過酸化水素はドーパミンに由来すると考えられた。 上記の結果により、MK-801がMAPによる神経傷害を抑制しないのは、MAPによる過酸化水素の産生の増加を抑制しないためであることが示唆された。また、MK-801の単独投与によっても過酸化水素の産生が増加し、それ自身過酸化水素を介した神経毒性を有する可能性があることが明らかとなった。
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