本研究は、ブチロフェノン系抗精神病薬の代謝に併用薬物が及ぼす影響と、さらにその血中濃度の個体差とcytochrome P450(CYP)2D6遺伝子型との関連について検討し、抗精神病薬治療の合理的ストラテジーを開発することを目的としている。 ブチロフェノン系抗精神病薬であるハロペリドール(HAL)血中濃度に及ぼすカルバマゼピン(CBZ)、パ-フェナジン(PPZ)、レボメプロマジン(LPZ)併用の影響について、同意の得られた80名の患者のデータを収集した。血中HAL濃度と体重あたり用量との間には正の相関があり、血中濃度/用量比の個体差は約7倍であり、CBZはHAL濃度を有意に低下させ、LPZはHAL濃度を有意に上昇させた。PPZは血中HAL濃度に有意な影響を与えなかった。ブチロフェノン系抗精神病薬であるブロムペリドール(BRP)血中濃度の個体差について、同意の得られた23名の患者のデータから、BRP血中濃度/体重あたり用量には20.4倍と大きな個体差を認めたものの、CYP2D6の変異遺伝子であるCYP2D6Ch(Chinese mutation)の保有とBRP血中濃度との間には明らかな相関は認めなかった。HAL血中濃度を上昇させたLPZはCYP2D6を阻害することが、HAL血中濃度を低下させたCBZはCYP3A4に関与していることが知られており、HALの代謝には従来から示されてきたCYP2D6のみならずCYP3A4も関係していることが示唆された。一方でHALと類似の構造を持つBRPの代謝にはCYP2D6は関与していないことが示された。尚、上記の所見については、第7回日本臨床精神神経薬理学会、第18回日本臨床薬理学会での学会発表を行った。 HALの代謝とCYP2D6の遺伝子型との関係についての検討を行うため、今後も引き続きサンプル収集と遺伝子解析を行う予定である。
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