研究概要 |
蛋白質中の酸性アミノ酸残基に生じるメチル化反応は、メチル基転移酵素(Isoaspartyl Protein Carboxyl Methyltransferase;PIMT)による可逆反応である。PIMTは広く哺乳類に存在し、主に脳、睾丸と赤血球に活性が高い。本酵素は、一部ラセミ化や脱アミド化を起こした老朽化蛋白を正常にもどし、その蛋白の蓄積を防ぎ、本来の機能蛋白に修復させる作用を持つ可能性が推定されている。 われわれは、ヒト赤芽球培養細胞、ラット脳や睾丸に特異的なcDNAの単離同定を行うとともに、ヒトの老化現象の一種と考えられる白内障患者のレンズでの本酵素低下も明らかにした。一方、低線量放射線照射による生体細胞の増殖促進や細胞寿命の延長(ホルミシス効果)が生じるが、その機序は明らかではない。本研究では、この機序に老朽化蛋白を正常蛋白に修復させると推定されるPIMTが関与する可能性を検討するために、放射線照射線維芽細胞での本酵素の遺伝子発現を検討した。 ラット骨格筋から線維芽細胞を遊離増殖させ、培養線維芽細胞に3段階の線量照射(25,50,75cGy)を行い、照射後の本酵素遺伝子の発現を比較した。各群1μgのtotal RNAから、逆転写を行いcDNAを作成しPCRの鋳型とした。使用したプライマーセットは2種類で、cDNA上の5'部分と中央部の2箇所に相当する。各cDNAをPCR増幅しゲル電気泳動後、エチジウムブロマイド染色とサザンプロット分析を行った。照射後1日目では、照射群(25,50,75cGy)と対照群(0cGy)では差は認められなかった。照射後3日目には、50cGyと75cGy照射群で、それぞれ約1.5倍と約2倍に増加していた。5日目には、50cGyでは対照群レベルに復したが、75cGy照射では依然約1.5倍の増加を示した。なお、いずれの時期にもβ-actin遺伝子は、ほぼ一定量発現されていた。この結果から、放射線照射によって本酵素の遺伝子発現が誘導される事が明らかになり、本酵素が老化蛋白修復に関連している可能性が想定された。
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