研究概要 |
幼少児期などのモノアミン系ニューロンの形成に重要な時期に受けたストレスと感情障害の生化学的脆弱性との関連性が考慮される。我々は妊娠ラットの妊娠後期に生理的食塩水を皮下注射するというストレスを負荷した母ラットより生まれた仔ラットをストレス群とし,特別の処置を加えない母ラットより生まれた仔ラットを対照群として,種々の検討を行った。ストレス群においては,前頭葉皮質におけるセロトニン_<2A>(5-HT_<2A>)受容体,β-受容体のup-regu1ation,抗うつ薬反復投与によりdown-regu1ationが早期に起こることから考えられるβ-受容体のhypersensitivity,HPA系の機能亢進,夜間行動量の変化と抗うつ薬の及ぼす効果など,ストレス群の感情障害の生化学的脆弱性モデルとしての可能性を肯定する知見が得られている。 オープンフィールドテストでは,segment enteredは雄雌ともストレス群で増加傾向がみられ,rearingは雄のストレス群で増加傾向がみられた。ビームセンサーによって行動量を計測するケージ設置型活動量測定装置を購入し,現在,行動量の詳細な検討を行っている。 5-HT_<1A>受容体は近年,抑うつ,不安に関して病因,治療薬の作用機序から注目されている中枢モノアミン受容体であるが,前前頭部皮質における5-HT_<1A>受容体結合実験では,1週齢,2週齢,4週齢において対照群とストレス群間でいずれも Kd値,Bmax値に有意差はみられなかった。自殺者の死後脳前頭葉における5-HT_<1A>受容体の down regu1ationが認められたとの報告がみられるが,胎生期ストレスラットの前前頭葉皮質5-HT_<1A>受容体については,対照群と比較してBmax値の有意な差はみられなかった。現在,成熟したラットにおいて,レセプターオートラジオグラフィー法を用い,海馬をはじめとする脳内の他の部位についての検討を行っている。
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