雲仙岳の噴火活動は終息に向かったが、(1)新しい居住地への集団移転、(2)小・中学校の統廃合、(3)家族離散による独居老人の新生活再建、(4)「先祖伝来の土地」が基盤である自営業者や農業従事者の生活復興に対する意見の対立、などの諸問題は残ったままである。このような状況のなかで、「頻回の避難歴」、「仮設住宅での避難生活」、「自営業的職業」、「通院を必要とする身体的問題」などの日常生活要因を時間経過・性別に検討すると、(1)男性の場合はそれらの要因が精神医学的問題に対するリスク要因として作用を及ぼしていなかった。しかし、(2)女性の場合、時間が経過すると共に、「仮設住宅での避難生活」、「自営業的職業」、「通院を必要とする身体的問題」などは精神医学的問題を悪化させるリスク要因として作用していた。更に、女性の場合、それらのリスク要因は時間経過と共に次第に加重されていく特性を有していた。また、(3)女性の場合、20歳代と30歳代の若年者におけるストレス度は時間経過と共に有意に低下していくのに対して、40歳代以降の中・高齢者におけるストレス度は高いまま経過するという傾向が認められた。つまり、年齢が高くなればなるほど、ストレス度も有意に高くなるという線形関係を示した。しかし、男性にはこのような現象が顕著な形で現れることは無かった。つまり、災害ストレスの影響には性差と年齢差を認めた。これらの所見から、被災住民に対する支援対策は、支援ニーズ変容プロセスを念頭に置いて行わなければならないことが明らかになった。
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