雲仙岳の噴火活動は1996年に終息したが、(1)新しい居住地への集団転移、(2)小・中学校の統廃合、(3)家族離散による独居老人の新生活再建、(4)「先祖伝来の土地」が基盤である自営業者や農業従事者の生活復興に対する意見の対立など、現実的な復興過程には諸問題が残ったままである。 本格的な避難生活開始後44カ月が経過した時点までに、(1)不安・緊張感、無能力・社会的機能障害感は早期から有意に改善したが、(2)抑うつ感、対人関係困難感は遷延ないし悪化の傾向をたどった。(3)日本の一般人口におけるGHQ8点以上の高得点者率は15〜25%という報告が多いが、避難住民の高得点者率は、44ケ月が経過した時点でさえ、約46%と高水準のままであった。これらの所見は、避難生活によって、被災住民個々人の安全性と活動性は早期に改善するが、「同じ被災者」という共有感情が消失した後の対人軋轢は容易に改善し難い性質を帯びていることを示唆している。また、(4)自宅や農耕地などに実害にあった群と無かった群を比較しても、GHQ得点の推移・変動は同様なパターンを示した。このことは、災害によって地域社会が破壊されると、その影響は直接失った財産によらず、地域社会に大きな変動を起こし、地域住民全体に波及することを示している。今回の結果は長期的な避難生活を強いられた被災住民の精神保健的支援ニーズが変容していくプロセスを確実にとらえる必要性と、そのプロセスを踏まえた上で支援対策を行うことの重要性を示唆している。
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