雲仙岳噴火活動は1990年11月に始まり、1996年6月に噴火終息宣言が出された。自宅生活を開始した被災住民の精神的健康状態の追跡調査を1998年11月に行った。今回の調査では、自己評価式質問票General Health Questionnaire30項目版の実施と共に、米国精神医学会の診断基準・DSM-IVの「外傷後ストレス障害(PTSD)」の構造化面接であるClinician Administered PTSD Scale(CAPS)を用いて被災住民137人の面接を行った。137人中の64人がCAPSのA項目を満足していた。64人中で全ての診断基準を満足していたのは16人であり、噴火開始時点から8年間におけるPTSDの生涯有病率は25.0%となった。性別にみると、男性は4人、女性は12人であった。面接時の年齢別にみると、50歳代が5人、60歳代が8人、70歳代が3人となっていた。阪神・淡路大震災から3年9ケ月のPTSD生涯有病率は20.5%、臨床閾値下の事例は23.3%であったとされている。雲仙岳噴火災害の観察期間は8年間であり、阪神・淡路大震災の観察期間の約2倍であるが、PTSD生涯有病率は5%の差異の間に収まっている。両災害における地域メンタルヘルス・サービスは「精神科診断学」を基盤とした活動ではなく、生活支援的色彩が強く、PTSDの全発病例を捉えているとは限らないため、この5%の差は発病率の差とは断定できない。阪神・淡路大震災におけるPTSD不全例が23.3%であったことから判断しても、表に現れない潜在性のPTSDも少なくないと推察される。また、診断基準を満たしていなくても、侵入症状・睡眠障害・不安症状で悩む被災住民は多いと考えられ、その支援ニ一ズをくみ取りつつ、長期的な支援活動を実施する必要がある。
|