研究概要 |
本年度においてはアルツハイマー型痴呆(ATD)において脳内異常構造物である老人斑と神経原線維に存在するアミロイドP成分の出現の由来を検討した.これまでアミロイドP成分は人の肝臓でのみ産生されると言われてきたが,老人斑と神経原線維の両者に沈着するアミロイドP成分が果たして肝臓で作られ血液を介してのみ脳内に出現したと考えるのか,または脳内でも産生され沈着しているのかはこれらの異常構造物の出現機序とも関係し興味深いと考えられる.これまでのアミロイドP成分に対する抗体を用いた検討だけではアミロイドP成分がどこで産生されているのかは判明しなかった.今回,我々はアミロイドP成分の遺伝子発現部位をヒト肝臓とヒト脳内において検討するために,アミロイドP成分のcDNAに相補的なリボプローブ(約300bp)を作成してこれにdigoxigeninを結合し,このプローブを用いてin situ hybridization法を組織上で行い,ATDならびに正常対照脳内においてアミロイドP成分のmRNAの出現を遺伝子レベルにおいて確認した.また免疫組織化学によっては老人斑中でのアミロイドP成分の分布はほぼアミロイドβ蛋白の分布と一致することを確認した.今回の検討でATDならびに正常対照脳組織において皮質の神経細胞を中心にアミロイドP成分のmRNAを検出したことからATDにおける老人斑・神経原線維へのアミロイドP成分の沈着は脳組織自体で作られたアミロイドP成分である可能性が高いと思われた.現段階の症例においてはATDならびに正常対照脳においてアミロイドP成分のmRNAの出現部位および出現強度に大きな相違は認められなかった.次年度以降はアミロイドP成分のmRNAの発現部位の詳細を検討するとともに症例数を増やし,また免疫染色とも組み合わせてアミロイドβ蛋白との関連もさらに検討していく予定である.
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