研究概要 |
この研究はアルツハイマー型痴呆(ATD)の患者脳内に出現する老人斑や神経原線維変化の代表的な構成要素のひとつであるアミロイドP成分と,ATDの病因・病態との関連を検討するためにアミロイドP成分の遺伝子や蛋白の発現分布や脳内動態を総合的に検索し,ATD脳中におけるアミロイドP成分の出現機序や,出現の意味,その果たす役割などの解明を試みるものである。 本年度はATD患者脳脊髄液中のアミロイドP成分の濃度をELISA法を用いて測定することにより,ATDにおけるアミロイドP成分の全身動態を探り,アミロイドP成分の脳内への出現機序ならびに沈着機序を検討した。今回の研究において72例のATDと9例の対照群において脳脊髄液中のアミロイドP成分濃度を測定した結果、ATD群と対照群との間に有意な差は認められなかった。しかしATD群において認知機能の指標であるMMSE(mini mental state examination)の得点と脳脊髄液中のアミロイドP成分濃度の間に相関が認められた。この結果から脳脊髄液中のアミロイドP成分濃度の測定がATDの認知機能の評価のマーカーになり得る可能性が示唆された。しかし、これまでに我々は血液中のアミロイドP成分濃度がATD群において有意に減少していることを報告したことを考慮すると、脳脊髄液中へのアミロイドP成分の移行はATDにおいても大きな変化はなかったため脳内におけるAPの動態についてはさらなる検討を要すると考えられた。また同時にATDならびに正常対照脳内においてアミロイドP成分の産生を遺伝子レベルにおいて確認するためにdigoxigeninを結合したリボプローブを用いたin situ hybridization法によるmRNAの検出をATDならびに対照症例にての検索をさらに増やしている。
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