本研究は、神経栄養因子が精神分裂病の病態発生に関連を持つ可能性について検討することを目的とする。今年度は、1.brain-derived neurotrophic factor(BDNF)遺伝子の2塩基繰り返し配列多型、及びciliary neurotrophic factor(CNTF)遺伝子のヌル変異と分裂病との関連についての検討、2.neurotrophin-3(NT-3)遺伝子のミスセンス変異(Gly^<-63>Glu)と分裂病との関連に関してのサンプル数を増やしての検討、3.NT-3遺伝子の2塩基繰り返し配列多型と海馬体積との相関についての検討、4.glial-cell derived neurotrophic factor(GDNF)遺伝子のエクソン領域の突然変異の探索、を行った。 結果は、1.BDNF、CNTF遺伝子の多型と分裂病との間には有意な関連は見出されず、病態発生に大きな役割を果たしている可能性は否定的であった。2.NT-3のミスセンス変異と分裂病との関連については、分裂病群262例、対照群284例にまでサンプル数を増やして検討したが、分裂病を類型化せずに検討した場合、分裂病群に変異型対立遺伝子が多い傾向はあるものの対立遺伝子頻度、遺伝子型頻度共に有意差はなかった。3.NT-3の2塩基繰り返し配列多型において、分裂病と関連があるとされている対立遺伝子(A3)を持つ者は、海馬(特に右側)の体積が有意に小さい結果であり、NT-3のA3対立遺伝子を持つ者の分裂病発症には海馬の発達障害が関与している可能性が示唆された。4.分裂病100例を対象にGDNF遺伝子の全エクソン領域についてSSCP(single strand conformational polymorphism)による突然変異の探索を行ったが、変異を持つ者は見出されなかった。
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