研究概要 |
5管の多管ガラス電極を古典的方法によって作成した。中心の管を錐体細胞の発火活動の記録用とし、4つの側管にはNMDA,kainate,quisqualateおよびacetylcholine(Ach)の水溶液のうちの4つを満たした。微小電気泳動法により、urethane(1.25g/kg, lP)麻酔下のラットの海馬CA1領域の錐体細胞近傍にNMDA,quisqualate,kainate,Ach各々を局所適用した。全実験を通じ適用時間を常に50秒間とした。抗不安薬全身投与前に、誘発される活動電位の出現頻度を8-12Hzとなる様に、注入電流を調整し、個々の錐体細胞について各々薬物の50秒間の適用中に記録された発火活動の数をbaselineとした。以降は、微小イオン注入装置の注入電流を固定し、抗不安薬がNMDA,quisqualate,kainateおよびAchの発火誘発作用に活動に対する影響を検討した。尾静脈から抗不安作用を持つことが明らかにされているセロトニン1A受容体作動薬のbuspironeを急性投与した。buspirone 0.03,0.1,0.3,1mg/kg(累積用量)によってNMDA,quisqualate,kainateおよびAchの発火誘発作用は全て用量依存的に抑制された。引き続きセロトニン1A受容体拮抗薬のWAY-100635(1mg/kg)を投与したところbuspironeの発火抑制作用は完全に阻害された。これまでbenzodiazepine系抗不安薬のalprazolamがkainateの発火誘発作用のみを抑制し、NMDA,quisqualateおよびAchの発火誘発作用に影響を及ぼさないことを示してきた。以上から,全く薬理作用の異なるこれらの抗不安薬が共通してkainate型受容体刺激によって誘発された海馬CA1錐体細胞の発火活動を抑制することが明らかになった。これらから、海馬がその発現に重要な役割を果たすと考えられる、記憶・認知に基づく不安の発現に、脳内に存在する興奮性アミノ酸がkainate型受容体を刺激することが重要な役割を果たしている可能性が示唆された。今後、行動薬理学的実験からこの仮説を検証してゆく予定である。
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