研究概要 |
本研究代表者は長年,下垂体腺腫の中で最も難病であるクッシング病の病態生理および新たな診断法・治療法について研究してきた.正常なACTH分泌細胞と同病の腺腫細胞の生物学的相違を明らかにし,その原因となる遺伝子異常を解明することが今回の研究課題の目的である.以下に主な研究実績を記す. 1.本研究代表者らは,正常下垂体ACTH分泌細胞のCRF受容体遺伝子発現が,CRFによりdown-regulateされることを既に見いだしていたが(Endocrinology,137:1758,1996),クッシング病の腺腫細胞では,逆に同遺伝子発現がCRFにより増強されることを新たに見いだした(本様式の発表論文;J.Chin.Endocrinol.Metab,1997).この事実は,腫瘍クローンの発生後に同細胞からのACTH分泌が正常細胞に比しdominantとなる過程に寄与していると考えられる. 2.desmopressin(バゾプレシンV2受容体アゴニスト)に対する正常ACTH分泌細胞とクッシング病腺腫細胞の反応性の相違を利用し,同病の新たな診断法とその基準を提唱した(本様式の発表論文;Endocrine J.,1997). 3.クッシング病腺腫細胞と正常ACTH分泌細胞の最も本質的な差異と考えられる糖質ステロイド抵抗性POMC発現に関して,クッシング病腺腫細胞では正常ACTH分泌細胞と異なりプロトオンコジーンc-fosの発現に糖質ステロイド抵抗性を見いだした.これにより,c-fosはPOMC遺伝子の転写因子として働くことから,c-fos発現の糖質コルチコイド抵抗性がPOMCの糖質コルチコイド抵抗性に結び付く可能性を示した.さらに,クッシング病腺腫のc-fos遺伝子を解析し,somatic mutationを見いだした(第70回日本内分泌学会学術総会にて発表,論文未発表).
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