私達は、バセドウ病患者において有意な胸腺の腫大が認められ、抗甲状腺剤による治療により胸腺が著明に縮小することを明らかにし、ヒト胸腺に甲状腺刺激ホルモン(TSH)受容体が存在することを見出した。本研究においては、バセドウ病患者における胸腺腫大ならびに抗甲状腺剤の治療による胸腺の縮小の機序の解明、胸腺における甲状腺ホルモンの作用機構の解明、胸腺におけるTSH受容体の局在と機能ならびに調節機構の解明を目的とする。 成長段階における胸腺のTSH受容体の発現の変化をラットを用いて検討したところ、5日齢の幼若ラットで既にその発現が確認され、成熟ラットにおいても発現が認められた。また、ラット胸腺上皮細胞の初代培養を行い検討したところ、RT-PCRにより胸腺上皮細胞にTSH受容体の発現が確認された。さらに、胸腺上皮細胞をTSHで刺激したところcAMPの増加反応が認められた。これらの結果より、胸腺上皮細胞に機能的なTSH受容体が発現していることが明らかとなり、T細胞の選択におけるTSH受容体の役割が推測された。次に、バセドウ病患者における胸腺腫大が抗甲状腺剤による治療により縮小する機序を検討する目的で、ラットに甲状腺摘除あるいは抗甲状腺剤投与を行ったところ、何れのラットにおいても対照に比し有意な胸腺の縮小を認め、胸腺組織におけるアポトーシス細胞の増加傾向を認めた。これらの結果より、バセドウ患者における治療後の胸腺の縮小に抗甲状腺剤による甲状腺ホルモンの低下を介する胸腺細胞のアポトーシスの亢進が関与していることが推測された。 甲状腺ホルモンの作用の発現には甲状腺から分泌されたT_4が活性型のT_3に変換される必要があり、その活性化にII型甲状腺ホルモン脱ヨード酵素(DII)が関与するが、近年ラット胸腺にDIIが存在することが報告された。今回の私達の検討によりバセドウ病患者の胸腺組織にDIIの発現が認められ、ヒト胸腺における甲状腺ホルモンの作用発現にDII関与していることが示唆された。私達は、ヒトDII遺伝子の発現調節機構の解明を目的としてヒトDII遺伝子のクローニングを試み、DII遺伝子の全長をクローニングすることに成功した。私達は、DII遺伝子の染色体位置を同定し、DII遺伝子のプロモーター領域の解析を行いその発現調節機構を解明した。
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