研究概要 |
申請者らは膵β細胞のATP感受性K(KATP)チャネルがKir6.2とABCスーパーファミリーに属するスルホニル尿素(SU)受容体SUR1の2つのサブユニットの複合体であること(Inagaki, et al. Science 270:1166,1995)、さらに心筋・骨格筋のKATPチャネルがKir6.2と新たなスルホニル尿素受容体SUR2の複合体であることを明らかにした(Inagaki et al.,Neuron 16:1011,1996)。 平成9年度には、SUR1に対する抗体を作成の後、SUR1の2つのヌクレオチド結合ドメイン(NBF‐1,-2)に対するATPの結合をフォトラベル法を用いて検討し、ATPがNBF-1に高親和性に結合すること、MgADPがNBF‐2に作用することによってATPのNBF-1に対する結合を阻害することが明らかにした(Ueda et., J.Biol.Chem.272:22983,1997)。したがって、ATPがKATPチャネルを閉鎖し、MgADPが開口するメカニズムとして2つのNBFの拮抗作用が示唆された。次に、膵β細胞のKATPチャネルがkir6.2とSUR1のヘテロ8量体の構造をとる可能性を示した(Inagaki et al.FEBS Lett,409:232,1997)。さらに、家族性の持続性高インスリン性低血糖症の家系でKir6.2の遺伝子異常が存在することを報告した(Nestorowicz et a1.Diabetes 46:1743,1997)。kir6.2のdominant negative fromを過剰発現させ膵β細胞のKATPチャネルの機能を破壊したトランスジェニックマウスを作成した。このマウスは新生児期には膵ラ氏島の形態は正常でむしろ低血糖を呈したが、その後次第に膵β細胞のアポトーシスが起こり糖尿病を発症した(Miki,T.,et al,Proc Natl,Acad.Sci,USA,94:11969,1997)。したがって、KATPチャネルが糖代謝異常の発症に重要であるだけでなく膵ラ氏島の発生・分化にも重要であることが明らかになった。
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