1.基質コラーゲンへの接着による骨芽細胞の分化形質の発現機序の解明 (i)これまでの検討から骨芽細胞では、基質I型コラーゲンと細胞膜α2β1インテグリンとの結合により、β1インテグリンに結合する情報伝達分子のFAKが活性化される。本年度の研究では、FAK antisense mRNAを導入してFAK発現量の低下したMC3T3-E1骨芽細胞を樹立し、この細胞の骨芽細胞分子過程の障害について検討した。その結果、FAKの活性化が低下することにより、骨芽細胞の分化が阻害されることが明かとなり、インテグリンによるFAK活性化が、骨芽細胞の分化に重要な役割を果たすことが明かとなった。 (ii)骨芽細胞の分化に関連して、FAKの下流に存在する情報伝達分子の同定を行い、mitogen-activated protein kinase(MAPK)群に属するERK1とERK2が活性化されることを見出した。さらに、MAPKを特異的に阻害する脱リン酸化酵素を発現させたり、MAPKを活性化するMAPKキナーゼを発現させるなどの方法により、MAPKの活性化が基質コラーゲンへの接着により誘導される骨芽細胞の分化に不可欠であることを明らかにした。 2.加齢による骨基質コラーゲンの変化が骨芽細胞の分化に及ぼす影響の解明 加齢により糖化I型コラーゲンの割合が増加する。I型コラーゲン塗布培養皿にグルコース6リン酸を加え、糖化コラーゲンを作成し、その上で細胞培養を行い、骨芽細胞の分化形質発現と細胞内情報伝達系に及ぼす影響を検討した。糖化コラーゲン上では、細胞接着によるFAKの活性化が抑制されると同時に、骨芽細胞の分化形質の発現が抑制されることが明かとなった。 以上の結果は、骨芽細胞による骨形成過程に、基質コラーゲンと細胞との相互作用が重要な役割を果たすことを示すのみならず、基質コラーゲンの加齢による変化が骨芽細胞の分化抑制に密接に関与する可能性を示唆するものである。
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