研究概要 |
甲状腺のヨードトタンスポーター(Na^+/I^- symporter,NIS)の動態は甲状腺ホルモンの合成のみならず、甲状腺癌治療においても極めて重要な位置を占める。そこでヒト甲状腺乳頭癌5例につきNIS mRNAの発現を検討したところ、正常部に比し明らかにその発現が増強していた。通常放射性ヨードでのシンチグラフィイ-では腫瘍部に取り込みはなく、意外な結果であるが、ヒトNISの第6細胞外領域に対する家兎抗体を作製し、Western bloth法による蛋白レベルでの検討さらに免疫組織化学による検討からも、癌組織でNISの発現増加が観察された。従って甲状腺腫瘍での放射性ヨード摂取能の欠除はNISの発現が低下している為ではなく、その機能が抑制されていることに起因すると考えられ、NISの機能を調節する他の因子の存在およびその解明が重要と思われる。一方、NIS遺伝子の発現機構を分子レベルデ解明すべく、ラットNIS遺伝子のクローニングを行い、FRTL-5細胞を使用してその転写開始点を決定したところ、翻訳開始点より-96bp付近であることが、プライマー伸長法、5'RACE法により確認された。NIS遺伝子を-1968bpよりリポーター遺伝子に結合し、5'側よりの欠失ミュータントを作製し、甲状腺細胞での選択的発現に必須の領域を検討すると、-291より-134bpが重要であることが判明した。以上の結果より、NISの機能を考える上で、NISのみならず他の調節因子の検討が重要であること、さらにその発現機構の解明にはNIS遺伝子の-300bp近傍に作用する転写因子の分離・解析が必要であると考えられた。
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