膵β細胞における糖毒性の分子機構:ディファレンシャルディスプレイ法による解析

1999 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 09671038
• 研究機関: 信州大学
• 研究代表者: 相澤 徹 信州大学, 医学部, 助教授 (90150896)
• 研究分担者: 山内 恵史 信州大学, 医学部, 講師 (30191191)
• キーワード: 膵β細胞 / インスリン / 糖毒性

研究概要

膵β細胞からのインスリン分泌のメカニズムについて精力的に研究を続行した。
特にFFAによるインスリン分泌刺激機構について新たな知見が得られた。いわゆるブドウ糖のKATPチャネルを介さないインスリン刺激機構の細胞内シグナルの一部が細胞内の長鎖acyl-CoAの蓄積であることを示した。この結果を踏まえ、ブドウ糖から長鎖acyl-CoAへの代謝の律速段階であるacetyl CoA carboxylaseをアンチセンスオリゴを用いて選択的に低下させたINS-1細胞について検討してみたが、十分なデータの蓄積が得られなかった。また膵β細胞内でのcAMPのインスリン活性化機構がブドウ糖のnon-ionic actionとのinteractionによることを報告した。これらとは別に膵β細胞のNADHシャトル系の機能的役割をノックアウトマウスを用いた実験で証明した。
また肥満をともなった2型糖尿病のモデル動物であるOLETFラットのβ細胞機能についてはこれまでの申請者らの成績を中心に書物としてまとめて報告した。一方ヒトでの糖毒性の最も代表的な例である急性ケトーシス発症糖尿病患者については長期予後を解析し、適切な初期治療が極めて良好な長期予後に結びつくことを見いだし報告した。
こうした事実はブドウ糖によるインスリン分泌過剰刺激(糖毒性)の臨床的側面、実験動物での現れ方、細胞、および細胞内でのメカニズムを解明する上で重要な手がかりを与えた。もっとも重要な点はβ細胞がブドウ糖によって刺激された状態で活性化される細胞内シグナルのこれまでに不明であった部分がかなり解明されたことである。今後これらの分子基盤を発生工学の手法を用いて検討する予定である。

研究成果

• [文献書誌] Eto K, 他: "Role of NADH shuttle system in glucose-induced activation of mitochondrial metabolism and insulin release"Science. 283. 981-985 (1999)
• [文献書誌] Yajima H, 他: "Cyclic AMP insulin secretion by an action on the ATP-sensitive K^+ channel-independent pathway of glucose signaling in rat pancreatic islets."Diabetes. 48. 1006-1012 (1999)
• [文献書誌] Komatsu K, 他: "Augmentation of Ca^<2+>-stimnlated insulin release by glucose and long-chain fatty acids in rat pancreatic islets"Diabetes. 48. 1543-1549 (1999)
• [文献書誌] Shigenatsu S, 他: "D-glucose and insuliu stimulete migration and lubalar formation of human endothelialcells in vitro."Am J Physiol. 277. E433-E438 (1999)
• [文献書誌] Katakura M, 他: "Long-term prognosis of islet cell antibody-negative, ketosis-onset diabetes with subsequent non-insuliu dependency"Diabetes Care. 22. 1584-1586 (1999)
• [文献書誌] Aizawa T, 他: "ObestyandNIDDM:Lessons from OLFTF rats"Elsevier Sciences. (1999)