研究概要 |
1.細胞内甲状腺ホルモン輸送機構についての研究:細胞内ホルモン輸送の変化がSick euthyroid syndrome(SES)の病態に関与する事を明らかにした。重症疾患で増加するIL-1,IL-6,TNFαがSESの病態形成に関与する可能性が指摘されていた。今回の研究で、脳下垂体細胞でのtetracの核への輸送がTNFαにより3-4倍促進され下垂体TSH分泌を抑制するが、肝臓や心筋細胞のtetracの核輸送の促進は1.5-2倍と弱く、甲状腺ホルモン作用の乖離が生じ、SESの病態が惹起される事を明らかにした。 2.細胞内甲状腺ホルモン輸送担体の臓器における違いを認識する薬剤の開発以前に報告された肝臓でのみ活性を有する甲状腺ホルモンアナログのSK&FL-94901は、細胞内輸送担体の臓器での違いを利用した肝臓選択的アナログである事を証明し論文発表した。さらに1)同様の機序による新しい肝臓選択的アナログ、および2)核受容体の臓器における違いを認識する肝臓選択的アナログを開発した。 3.甲状腺ホルモンの細胞内輸送担体cDNAクローニング:細胞外から核への甲状腺ホルモン輸送担体クローニングに関してはヒト胎児脳cDNAライブラリーより、細胞質から細胞核へのトリヨードサイロニン(T3)輸送を制御するタンパク質cDNAをクローニングした。さらに他の臓器でのcDNAクローニングと構造解析を行い、臓器選択的作用を示すリガンドのデザインおよび薬物としての応用を検討する。 4.その他の研究:RAによりアポトーシスが惹起される培養ヒト骨髄性白血病細胞(HL-60 cells)にalltrans-RAを漸増していきアポトーシスが起きないRA抵抗性細胞株を2株樹立し抵抗性の機序を解明した。また核受容体共通の情報伝達系路として、RXRと相互作用する因子を解析し、octamer-binding transcription factor 1(Oct-1)がRXR作用を低下させている事を発見した。さらにビタミンDのHL-60および培養ヒトmelanoma cellsに対する作用としてβ integrinとα integrin遺伝子発現の減少を介しVery late antigen-4(VLA-4)を減少させる事を報告し、腫瘍の転移や発育に対するビタミンDの抑制効果を示した。
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