N+/H^+交換体(NHE)活性が細胞内のナトリウムやカルシウムイオン濃度と密接に関係しており糖尿病性腎症発症のメカニズムにおいて重要な働きをしていると考えられる。近年NHEcDNAが次々とクローニングされ、少なくとも4種のアイソフォームが存在することが明らかになっている。また腎にはこの4種すべてが発現していることが明らかになった。そこで今回は4種のNHE遺伝子をヒトゲノムライブラリーより単離し、エクソン-イントロン構造を明らかにし、この結果を用いて糖尿病者にNHE遺伝子異常が存在するかを検索することを目的としている。初年度は、NHE2-4のcDNAを用いてヒトゲノムライブラリーをスクリーニングし各々複数の陽性クローンを得た。現在、全長の塩基配列を決定するべくシークエンス作業を続行中である。また、NHEと糖尿病性腎症との関連を明らかにするべく糖尿病モデルであるGKラットの腎においてNHE遺伝子発現がいかなる調節を受けるかをCompetitive PCR法を用いて、GKおよびWistarラット腎におけるNHE1-4各々の遺伝子発現量を比較したところNHE1、2および4の発現量の差を認めなかった。しかしNHE3はGKラットにおいて約1.5倍に有意に増加していた。これより糖尿病状態において腎症の発症、進展にNHEは何らかの関与をしている可能性があり、特にNHE3との関係が深いと考えられた(以上の結果を糖尿病学会に報告した)。今後これらの結果を基に糖尿病患者にNHE遺伝子異常が存在するかを検索し、さらに遺伝子上流域を検討し、患者特有の転写調節異常が存在するかを検討する。
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