研究概要 |
腎疾患の発症・進展において重要と考えられる組織レニン-アンジオテンシン系(RAS)、また抑制系のアドレノメデュリン(AM)およびNa利尿ペプチド系の機能的意義について、以下の知見を得た。 (1) レニン-アンジオテンシン系 AII受容体の2型(AT_2)サブタイプは、昇圧に関与する1型(AT_1)受容体に拮抗的な役割が示唆されているが、その意義は未だ不明である。ラット腎臓におけるAII受容体発現を検討し、若年の高血圧自然発症ラット(SHR SP)糸球体で正常対照(WKY)に比しAT_2受容体発現の有意な減少を認め、高血圧発症への関与を示唆した。またWKY由来培養腎メサンギウム細胞ではconfluent後の増殖抑制に伴ってAT_2受容体発現が著増するが、増殖性の亢進したSHRSP由来細胞ではその発現が全く見られず、さらにAT_1受容体を介した細胞増殖がAT_2受容体刺激で抑制されることを見出し、その機序として、MAPキナーゼ(ERK-1/2,p38)カスケードの抑制とアポトーシスの亢進を認めた。 (2) アドレノメデュリン系 AMに対する高親和性モノクローナル抗体を作製してRIAを確立しAM分泌を検討したところ、培養メサンギウム細胞から内皮細胞や血管平滑筋細胞に匹敵するAM分泌を認め、またAMは強力な細胞噌殖抑制作用を示し、これらの細胞において内因性のAMがautocrine/paracrine調節因子として増殖抑制に関与することを示した。また、SHRSP由来メサンギウム細胞においてWKYに比し有意のAM分泌の減少およびAMに対する反応性の亢進を認め、増殖調節への関与を示唆した。 (3) 腎アンジオテンシン系とAM系、Na利尿ペプチド系との相互作用 マウスでRAS活性化に続き糸球体肥大・硬化を来す5/6腎摘モデルを作製し、約2倍の著明な糸球体面積増加と糸球体内TGF-β、fibronectin発現亢進を認めた。慢性的なNa利尿ペプチド過剰を示すBNP-transgenic mouse(BNP-Tg)では、糸球体肥大およびTGF-β、fibronectin発現の著明な抑制を認めた。抗糸球体基底膜腎炎でも、BNP-Tgで蛋白尿減少効果を認め、これら保護作用の機序を検討中である。 また、AMは腎尿細管に多く発現するが、別のRAS活性化モデルである尿管結紮水腎症モデルで間質線維化とともにAM発現が著減することを見出し、内因性AMが保護的に働く可能性が示唆された。
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