研究概要 |
【目的】今年度は,昨年度に引き続いて,生体内(脳内)電気穿孔法に関する基礎的な検討を実施した。 【方法】β-galactosidase発現ベクター(pCMVβ)をラットの側脳室内に投与し,視床下部に留置した双極電極からパルス電流を通電した。通電の条件は,昨年度の検討結果より,電圧は50〜100Vとし,両方向に計16回のパルス電流を通電した。実験終了後に,ラットの脳を灌流固定し,脳内に取り込まれたプラスミドの分布をX-Galを基質にした発色反応によって観察した。 【結果】X-Galの発色反応が認められたのは,脳室内脈絡叢,視床下部室傍核の大細胞領域,視束上核のみであった。電極の通電部位である先端部が挿入されている視床下部弓状核周辺にはプラスミドの取り込みは認められなかった。プラスミドを脳室内に挿入後,電流を通電しなかった場合には,脳内にプラスミドの取り込みは全くみられなかった。さらに,プラスミドを頸動脈に投与した場合にも,X-Gal染色性の脳内分布は変化がなかった。 【考察】予想に反し,プラスミドの取り込みは電極先端部の視床下部弓状核にはみられず,電極の位置から距離的に離れた視床下部室傍核や視束上核に観察された。これはおそらく,神経核自体の性質というよりも,これらの神経核に何かプラスミドを取り込む機構があるのではないかと考えている。この一つの可能性としては,脳室内に投与されたプラスミドが,脳室周囲器官に存在する種々のニューロンを介して,逆行性に室傍核や視束上核に移送される機構が考えられる。この作業仮説は,動脈内に投与されたプラスミドが脳室内投与の場合と全く同じような分布を示したという結果からも有力であると考えられる。現在,室傍核や視束上核のどのニューロンにプラスミドの取り込みが認められるのかについてバゾプレッシンやオキシトシン等の免疫染色を実施中である。ニューロンが特定されれば,神経ペプチドの発現調節ベクターを用いてその生理効果を観察する予定である。
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