研究概要 |
TSH受容体の翻訳後修飾のうち糖鎖については、9年度にTSH受容体は翻訳後小胞体で高マンノース型糖鎖が付加され、次いでゴルジに移行して複合型糖鎖へと変換されることを免疫沈降法にて確認した。10年度はさらに糖鎖の機能的意義を明らかにするために、糖鎖付加阻害剤であるツニカマイシンの影響と、糖鎖合成の各段階に変異を持つCHO細胞変異株(CHO-Lec1,2,8)に発現した受容体機能を検討した。 TSH受容体を発現した親株CHOをツニカマイシンで処理すると、全く糖鎖が付加されていないTSH受容体が産生されることを免疫沈降とウエスタンブロットで確認した。しかし細胞膜上及び細胞内小器官にはTSH結合は全く見い出せないことから、糖鎖を完全に欠くTSH受容体は正常の立体構造をとれないことが明らかとなった。 CHO-Lec1,2,8は、それぞれN-acetylglucosaminyltransferase I、シアル酸輸送体、ガラクトース輸送体を欠損する細胞で、親株CHO細胞での糖鎖がSia_2Gal_2GlcNAc_2Man_2GlcNAc_2であるのに対し、Man_5GlcNAc_2、Gal_2GlcNAc_2Man_3GlcNAc_2、GlcNAc_2Man_3GlcNAc_2型の糖鎖をつくる。これらの細胞を用いた実験では、これらゴルジ内での糖鎖合成障害はTSH受容体の機能、即ちTSH・自己抗体結合能には影響を及ぼさないが、受容体の細胞膜への移行を阻害することが見い出された。 以上より、糖鎖の付加はTSH受容体蛋白の正常な立体構造獲得に関与しているが、ゴルジにおける糖鎖プロセッシングは受容体立体構造維持には関与せず、受容体の細胞膜への移行に重要な役割を果たしていると結論された。
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