TSH受容体の翻訳後修飾について以下の解析を行った。主な新知見と共に述べる。 (1) 糖鎖について:TSH受容体は翻訳後小胞体で高マンノース型糖鎖が付加され、次いでゴルジに移行して複合型糖鎖へと変換されることを免疫沈降法にて確認した。さらに小胞体における糖鎖の付加はTSH受容体蛋白の正常な立体構造獲得に関与しているが、ゴルジにおける糖鎖プロセッシングは受容体立体構造維持には関与せず、受容体の細胞膜への移行に重要な役割を果たしていることが明らかとなった。 (2) アシル化について:TSH受容体の細胞内C端に位置する699番目アミノ酸・システインにパルミチン酸が付加され、受容体がアシル化されることを免疫沈降法を用いて証明した。このアミノ酸を他のアミノ酸に置換した変異受容体を作成して機能を解析したところ、TSH結合能・cAMP産生能・脱感作能・TSH刺激後の受容体細胞内移行には変化は認められなかったが、細胞内小器官から細胞膜への移行に遅延が見られた。よってTSH受容体のパルミチン酸は受容体の細胞膜移行速度を促進していると考えられた。 (3) サブユニット構造について:TSH受容体は2サブユニットに分かれる際、2箇所で切断されて、2つのサブユニット以外にその間の短いペプチドが生じることを明らかにした。この蛋白限定分解部位を同定するために種々のアミノ酸置換を持つ変異受容体を作成して検討したところ、特定のアミノ酸が認識されて切断されるのではなく、蛋白の立体構造が切断に関わる酵素による受容体の認識に重要であることが示唆された。
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