研究概要 |
β3アドレナリン受容体は白色脂肪組織と褐色脂肪組織に存在する痩せるための受容体である。しかし、ヒトにおける意義に関しては不明な点が多い。1995年、ピマインデイアンにてこのβ3アドレナリン受容体のミスセンス変異(Trp64Arg)が発見された。我々は、日本人で検討したところ、この変異が3人に1人の高頻度に存在すること、内臓脂肪型肥満、インスリン抵抗性、減量困難性、糖尿病網膜症や腎症と関連する事を見出した。現在、先進諸国では生活習慣病対策が急務とされており、その中でも肥満対策は最重要課題である。しかし、肥満の原因としては、環境因子とならび遺伝因子も重要と考えられるが、未解決の部分が多い。そこで我々は、β3受容体遺伝子変異と肥満の関係を一つの突破口として、遺伝子変異が肥満及びその合併症を引き起こすメカニズムを解明することを目的に以下の研究を行った。すなわち、変異β3受容体と正常β3受容体を前駆脂肪細胞である3T3-L1細胞に発現させ、脂肪細胞で変異β3受容体の機能を検討してみると、変異β3受容体ではβ3アゴニスト刺激によるcAMP産生が有意に抑制されていた。また、手術時摘出ヒト白色志望組織標本を用い、β3アゴニスト刺激による脂肪分解能を検討したところ、変異β3受容体を持つ白色脂肪組織では脂肪分解能が有意に低下していることを見いだした。これらの成績は、Trp64Arg変異を持つ群の脂肪細胞ではβ3受容体を介するシグナル伝達が減弱し脂肪分解能が低下していることを示すものである。また、β3アゴニストのAJ-9677(大日本製薬)を用い、Phase1試験を行った。投与量0.1,0.2,0.5mg/kgの経口単回投与では、目立った副作用もなく、生理的食塩水投与群に比べ、0.1mg/kgの量より0.5mg/kgの量まで濃度依存的に有意な血中遊離脂肪酸及びグリセロール値の増加を認めた。今後の肥満及び肥満型糖尿病患者に対するPhase2試験が期待される。
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