1.低酸素刺激によるVEGF発現の制御機構 網膜でVEGFの発現を誘導する最も強い刺激は、虚血組織での低酸素刺激と考えられているが、低酸素刺激によるVEGF発現の細胞内シグナルについては不明な点が多い。そこで本研究では、低酸素刺激の細胞内シグナルに活性酸素が関与しているかを検討したところ、低酸素刺激による増加するVEGFmRNAは抗酸化剤であるDMTUの投与により濃度依存性に抑制された。このことから、低酸素刺激の細胞内シグナルに活性酸素が関与していることが示唆された。次に、細胞内の活性酸素産生系の中のどの系が低酸素刺激による活性酸素産生に関与するかを検討した。その結果、NADP Hオキシダーゼおよびミトコンドリア電子伝達系の関与の可能性は低いことを明かとなった。アラキドン酸代謝の3経路の抑制剤であるindomethacin(シクロオ キシゲナーゼ抑制剤)、NDGA(リポオキシゲナーゼ抑制剤)およびclotrimazole(モノオキゲナーゼ抑制剤)は、いずれも低酸素刺激によるVEGFmRNAの増加を部分的に抑制したため、アラキドン酸代謝経路での活性酸素産生が低酸素刺激によるVEGF産生に関与していることが示唆された(投稿準備中)。今後、低酸素刺激がどのようにしてアラキドン酸代謝経路を活性化するのか検討中である。 2.非酵素的糖化後期反応生成物(AGE)によるVEGFの発現 糖尿病状態では、生体内の種々の蛋白質が非酵素的に糖化され最終的にAGEといわれる複雑な化合物が生成され、これが動脈硬化や細小血管症の原因になると考えられている。そこで、我々は、このAGEの網膜症発症への関与を明かにするため、AGEのVEGFの発現に対する影響を検討した。その結果、1)AGEは、ヒト平滑筋細胞や網膜色素上皮細胞において濃度依存性にVEGFmRNAの発現が増加させ、このAGEによるVEGFmRNAの増加は、抗酸化剤であるDMTUで有意に抑制されること、2)ラットの硝子体液中にAGEを注入すると、網膜にVEGF蛋白の強い発現がみられること、が明らかとなった。これらのことから、AGEはVEGFの産生を介して網膜症の発症に関与することが示唆された(投稿準備中)。
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