研究概要 |
1. 非酵素的糖化後期反応生成物(AGE)によるVEGFの発現 糖尿病状態では蛋白質の非酵素的糖化によりAGEが生成され、これが様々な生物作用を誘導し糖尿病合併症の原因になることが知られている。そこで、本研究では、AGEのVEGFの発現に対する影響を検討し、下記の結果を明らかにし報告した(J Clin Invest 101:1219,1998)。1)AGEは、ヒト平滑筋細胞や網膜色素上皮細胞において濃度依存性にVEGFmRNAの発現を増加させ、このAGEによるVEGFmRNAの増加は、抗酸化剤により抑制された。2)AGEを添加した培養液は内皮細胞の増殖を促進しこれは抗VEGF中和抗体で抑制された。3)ラットの硝子体液中にAGEを注入すると、網膜にVEGF蛋白の強い発現がみられた。 次に、ヒトの糖尿病網膜症へのAGEの関与を検討するために、増殖網膜症を有する糖尿病患者から硝子体手術時に採取した増殖膜でのAGEとVEGFの局在をそれぞれに対する抗体を用い免疫組織染色を行なった。その結果、1)AGEは増殖膜の間質およびマクロファージに強く蓄積し、2)VEGFはマクロファージおよび増殖膜内の血管壁に発現が見られた。さらに、硝子体液中のAGE濃度をELISA法で測定したところ、対象群(非糖尿病患者の硝子体液)のAGE濃度に比し糖尿病群のAGE濃度は有意に高値であった(結果についてはJapan-US cooperative medical science program,Joint symposiun,1998で発表、現在投稿準備中)。これらのことから、AGEはVEGFの産生を介して網膜症の発症に関与することが示唆された。 2. VEGF発現に対するnitric oxide(NO)の影響について 我々はこれまで、低酸素刺激やAGEによるVEGF遺伝子の発現誘導に細胞内酸化ストレスが関与することを報告してきた。近年、NOが血管機能調節の重要な因子であることが明らかとなってきているが、その作用の一部は活性酸素で誘導される生物反応に拮抗することによるとされる。そこで、低酸素刺激やAGEによるVEGF遺伝子の発現に対するNOの影響を検討したところ、NOドナーであるnitroprusideはVEGF遺伝子の発現を有意に抑制することが明らかとなった。この結果は、臨床で広く使用されている亜硝酸剤の糖尿病網膜症への有用性を示唆するものであり、今後糖尿病動物によりinvivoでの効果を検討する予定である。
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