ACTH産生腫瘍、すなわちACTH産生下垂体腺腫(Cushing病)、異所性ACTH産生腫瘍の発症機序は不明であり、診断および治療が困難な場合が多い。これらのACTH産生腫瘍に共通する臨床的な特徴として、グルココルチコイド(GC)によるACTH分泌抑制不全がある。その原因として、GC受容体(GR)およびそれ以降のGCシグナルの伝達異常が想定される。本研究では、ACTH産生腫癌症例においてGR遺伝子に異常があるか否かを明らかにし、異常が認められた場合その変異GRの機能を解析する目的でおこなわれた。ACTH産生下垂体腺腫4例の組織標本および末梢白血球、健常成人末梢白血球より抽出したDNAを用い、GRの各エクソンをPCRによる増幅した。GR各エクソンPCR産物をアガロースゲルで電気泳動精製したものを、single strand conformation polymorphism(SSCP)解析した。SSCP解析には、ポリアクリラミドゲルの銀染色法を用いた。SSCP解析で見る限り、ACTH産生下垂体腺腫より抽出したDNAと健常成人白血球DNAのGR各エクソンの泳動パターンの間に差異は見いだせなかった。また、GRエクソン2および3の塩基配列を直接決定したが、同様に差異は見いだせなかった。1998年Huizengaらが我々とほぼ同様の戦略でACTH産生下垂体腺腫22例において、GR遺伝子の変異を検討しているが、変異を見いだしていない。以上の結果から、ACTH産生腫瘍におけるGC反応性の低下にかかわるGR遺伝子変異の寄与は少ないものと推測された。今後、CRH受容体を含めて他の遺伝子を検索する必要があるものと考えられる。
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