研究概要 |
【目的】癌抑制遺伝子であるp53の変異は種々の臓器における悪性腫瘍の発生、進展に関与する事が報告され、悪性度や予後の指標としての有用性が示唆されている。我々は、褐色細胞腫および副腎皮質腫瘍におけるp53の臨床的意義を明らかにするため腫瘍組織における遺伝子変異の有無を検討した。【方法】褐色細胞腫33例,原発性アルドステロン症17例、副腎性クッシング症候群12例の凍結あるいはパラフィン包埋組織標本よりDNAを抽出、PCR-SSCP法にてp53遺伝子exon4〜9の変異の有無をスクリーニングした。陽性例はサイクルシークエンス法にて塩基配列を同定し、更にp53およびその下流因子WAF1について免疫組織化学的検討を行った。【結果】悪性例10例中4例および良性多発例5例中2例の計6例はPCR-SSCP陽性を示したが、18例の良性孤発例はすべて陰性であった。6例の陽性例のうち2例はintron内に、4例はexon内[Cys^<135>→Arg^<135>(exon5)、Pro^<190>→Ser^<190>(exon6)、Ser^<315>→Phe^<315>(exon9)、Ser^<269>→Ser^<269>(exon8)]に点変異を認めた。以上の6例中5例はG:C→A:T transition typeの点変異であった。腫瘍組織の免疫染色にてミスセンス変異3例中2例およびintron内の点変異2例中1例はp53陽性を示し、半減期の長い変異p53蛋白の細胞内集積が示唆された。一方、腫瘍組織でのWAF1の発現レベルはp53の変異の有無にかかわらず極めて低く、両者の挙動に乖離が認められた。褐色細胞腫とは対照的に17例の原発性アルドステロン症、12例の副腎性クッシング症候群の腫瘍組織ではp53遺伝子の変異は認められなかった。従来の報告と一致してp53遺伝子のコドン72にproline(CCC)とarginine(CGC)の遺伝子多型を認めたが、褐色細胞腫、原発性アルドステロン症、クッシング症候群の3種類の副腎腫瘍組織間で本多型の頻度には差を認めなかった。【結論】褐色細胞腫でのp53変異は悪性例および良性多発例での特異性が高く,副腎皮質腫瘍では全く認められなかった事から、予後に関する指標として有用であると考えられた。
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