乳癌、骨粗鬆症、動脈硬化症などの加齢に伴う疾患の病因としてエストロゲンの産生異常が考えられる。これらの組織において多重エクソン1・プロモーターの組織特異的選択により発現調節されているエストロゲン合成酵素(アロマターゼ)は主に脂肪組織型のエクソン1bから転写調節されているが、加齢に伴って病態が進行するとともに選択されるエクソン1はエクソン1bからエクソン1c及び1dにスイッチングを起こし、発現異常を引き起こすのではないかと考えられる。こうしたアロマターゼ遺伝子の発現異常の原因ともなる多重エクソン1スイッチングを引き起こす機構について解析を行なった。先ず、乳房より単離した脂肪組織間質細胞を形質転換させ不死化した複数個の細胞クローンを得た。この中から、倍地からの血清の除去或いはフォルスコリンやフォルボールエステルなどのPKAやPKCの活性化因子によりアロマターゼの大幅な発現亢進及び多重エクソン1のスイッチングといった乳癌組織と同様な反応が観察される細胞株を選択し、実験に使用した。この細胞株を使用してアロマターゼ遺伝子プロモーター領域について転写調節領域をCAT解析及びフットプリント解析により調べた。その結果、転写開始点上流、-430bp以内に多重エクソン1の組織特異的選択に必須のエレメントが有ることが判った。そこで同定した領域について血清除去或いはFor/TPA処理した脂肪核組織間質細胞抽出液を用いてゲルシフト解析を行なった。その結果、低レベルのアロマターゼ発現が確認される通常の血清倍地中では結合しているが、スイッチング誘起条件下では解離してくれる核内DNA結合因子を見出した。この因子がエクソン1bからの組織特異的選択に不可欠な因子と考え、現在、この核内DNA結合因子の単離を試みている。
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