本研究では乳癌、骨粗鬆症、動脈硬化症、アルツハイマー型痴呆症などの加齢に伴う疾患の病因の一つとしてエストロゲンの産生異常に注目し、これらの組織におけるアロマターゼ(エストロゲン合成酵素)遺伝子の発現異常の原因ともなる多重エクソン1スイッチングを引き起こす分子機構について解析を行なった。昨年度の本基盤研究により確立した乳房由来の脂肪組織間質細胞は、培地から血清を除去したり、フォルスコリン(For)やフォルボールエステル(TPA)などのPKAやPKCの活性化因子の添加により、乳癌組織において高頻度に観察されるアロマターゼの大幅な発現亢進及び多重エクソン1のスイッチングを引き起こす。そこでこの培養細胞株を使用して、先ず、健常人の脂肪組織間質細胞で組織特異的に選択されているエクソン1bの選択特異性を決定するプロモーター領域を、新たに開発したアロマターゼ遺伝子の多重エクソン1及びプロモーター領域とCAT遺伝子の融合遺伝子ベクターを使用した転写産物解析により決定した。その結果、転写開始点上流、-500bp以内に多重エクソン1の組織特異的選択に必須のエレメントが有ることが判った。そこで同定した領域について血清除去或いはFor/TPA処理した脂肪組織間質細胞核抽出液を正常無処理血清培養下の細胞核抽出液と比較しながらゲルシフト解析を行なった。その結果、培養細胞核抽出液中にはエクソン1bのプロモーター領域の-300bp及び-450bp付近の2ヶ所のDNA配列に対して無処理血清培養条件下では結合しているが、スイッチング誘起条件下では解離してくる核内DNA結合因子を見出した。この核内DNA結合因子が乳房脂肪組織間質細胞、造骨芽細胞・軟骨細胞、血管平滑筋細胞、グリア細胞などのアロマターゼ発現においてエクソン1bを特異的に選択するための不可欠な因子と考え、この因子が結合するDNA配列を選択プローブとして酵母を使用したOne-Hybrid Systemにより核内DNA結合因子の単離を行っている。
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