研究概要 |
高比重リボ蛋白(HDL)の抗動脈硬化作用が知られているが,そのメカニズムは末梢細胞から余剰のコレステロールを引き抜き肝臓へ戻し処理する,コレステロール逆転送系によるものと考えられている。HDL受容体はこの際に細胞とHDL間のコレステロールの受け渡しに働く膜蛋白であるが,その分子構造や発現調節は未だ十分には解明されていない。 本研究では我々がHDL受容体候補としてクローニングしたHDL結合蛋白(HB2)について,その機能と発現調節機構を解明するため以下の検討を行った。各種遺伝子の発現調節に関わることが知られている脂溶性ビタミンのHB2発現に及ぼす作用についてTHP-1細胞を用いて検討した。レチノールおよび1,25-vitaminD_3添加ではHB2の発現に変化はみられなかったが,25-vitaminD_3を50nM培地に加えたときにはHB2の発現が増加する傾向がみられた。また,α-トコフェロールではフォルボールエステル(PMA)処理してマクロファージ化した細胞では,100μMで有意にHB2の発現が減少した。また,HDLはアルコール摂取で増加することが知られており,アルコールの影響についても検討した。PMA処理したTHP-1cellでは培地中のエタノール終濃度が5mMで1.6倍に有意に増加した。 一方,HB2は脳に強い発現が認められ,HB2と高い相同性が認められたトリBENやヒトALCAMは脳において神経系の再生と増殖への関与が示唆されている。脳神経系の形成・発達におけるHB2の機能を解析するため,マウスを用いて胎児期から成長過程における脳のHB2発現の変化を検討した。HB2の脳における発現量には大きな変化は認められずほぼ一定で成熟マウスと同程度であり,脳の発達との関わりは弱いと考えられたが,肝臓では5,10,15日令で成熟マウスの2〜3倍の発現量を示し,20日令以降は成熟マウスとほぼ同じ値を示した。
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