1.ヒト正常造血細胞の分化・増殖と細胞周期制御:P21の発現を解析する定量的RT-PCR法を確立し、臍帯血CD34陽性細胞由来コロニーでの発現を解析した。これまで、分化誘導によってp21が発現し増殖が停止することが細胞株を用いて示されているが、今回、ヒト正常造血細胞のいずれの系統においても最終分化に伴うp21mRNAの上昇が認められた。特に、単球・マクロファージコロニーでは、MEG-01s巨核球系細胞株の分化に際して誘導されるのと同程度のp21mRNAの発現が認められた。さらに、p21蛋白をマクロファージの核に検出することができた。しかし、p21mRNAおよび蛋白の発現時期は、マクロファージへの分化後であり、これらの正常細胞では分化の上流にp21の発現は存在しないことが示唆された。2.サイトカインによる細胞周期制御因子の発現制御:CD34陽性細胞に対してサイトカインで増殖を刺激すると12時間後にはサイクリンD1の発現誘導が確認され、それまで低レベルで発現していたp21の発現が一時的に消失した。造血幹細胞においてもサイクリンDおよびp21による細胞周期制御が行われていることが示唆された。3.ヒト造血細胞の腫瘍化と細胞周期制御因子:p16INK4aとp15INK4bの発現を解析するRT-PCRを確立したところ、血液系細胞株の大半で、いずれかまたは両方の発現が欠損していた。また、p16遺伝子から別個に産生されるp19ARFについても解析すると、ほとんどの血液系細胞株ならびに臨床検体(正常末梢血単核球を含む)ではp16INK4aよりp19ARFのmRNAの発現が主体であり、p16遺伝子の生理的作用としてのp19ARFの重要性が示唆された。これまでの報告と同様に、リンパ系腫瘍の一部にp16遺伝子発現のない症例がある一方で、少数例にp16INK4aの過剰発現が見られた。以上、極めて多彩な発現レベルが観察され、血液系腫瘍の細胞周期制御機構の異常が示唆された。
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