私共は、骨髄性腫瘍疾患の発症におけるゲノム不安定性の機構を解析するモデル疾患としてFanconi貧血(FA)を対象とし、その病態の解明および遺伝子診断法の開発に取り組んでいる。FAはゲノム不安定性を特徴とし、小児期に再生不良性貧血を発症し、高率に骨髄異形成症候群あるいは急性骨髄性白血病に移行する常染色体劣性遺伝疾患である。遺伝学的に異なる5つ(A-E群)以上のグループに分類され、これまでにC群遺伝子FACとA群遺伝子FAAがクローニングされている。本年度は、これらの遺伝子産物の作用機構の解明と日本人患者における遺伝子異常の診断について、以下のような成果を得た。1.FAA蛋白がリン酸化を受けることを見出した。このリン酸化はFAAとFACの相互作用と密接に関連しており、機能的に重要であると考えられる。2.日本人FA患者29例においてFACを解析し、これまでユダヤ人に特徴的とされてきた変異(IVS4+4A→T)のhomozygoteを8例見出した。ユダヤ人でこの変異を持つ患者は、他の変異を持つC群やC群以外の患者に比較して有意に重症の臨床表現型を持つことが報告されている。しかし、日本人患者においては、この変異を持つ群と他の群の間に表現型の差は見出せなかった。すなわち、同じ変異でも両民族で表現型に差があることが示唆された。3.FAA遺伝子異常のスクリーニングとして蛋白の解析の有用性を検討し、C群以外の患者から樹立したリンパ芽球細胞株で5例中4例にFAAの蛋白の異常を認めた。また、患者の一次培養細胞を用いた機能的complementationによるスクリーニング法を開発中である。このように、本年度の研究目的は十分達成することができた。
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