研究概要 |
Fanconi貧血(FA)は、造血異常や染色体不安定性を特徴とする常染色体遺伝疾患であり、8つの異なる遺伝子異常を持つ群(A-H群)に分類される。各群は共通した細胞および臨床表現型を示すことから、各群に対応した遺伝子産物は密接に相互作用することが考えられる。これまでに、C群とA群の遺伝子FAC,FAAがクローニングされている。最近、両者の蛋白が結合し核内へ移行すること、またFAA蛋白がリン酸化されていることが判明した。そこで、これらのFA蛋白の作用をさらに解析した。正常人由来のリンパ芽球において、FAAとFACの結合、FAAのリン酸化が認められた。また、FAAおよびFACは細胞質だけでなく核内にも認められた。これに対して、FAAを欠損あるいは変異FAA(delF1263)を発現するA群の細胞、および変異FAC(L554P)を発現するC群の細胞では、これらは阻害されていた。それぞれの細胞に正常FAAあるいは正常FACを導入すると、これらは正常に復した。さらに、B,E,F,G,H群の細胞において、FAA/FACの結合、FAAのリン酸化はいずれも阻害を受けていたが、D群細胞においては、いずれも保持されていた。また、FAAとFACの核内移行はB,E群細胞において阻害されていたが、D群細胞においては保持されていた。以上の結果は、FAAリン酸化、FAA/FACの結合、FAAとFACの核内移行が密接に相関しつつ、FAB,E,F,G,H蛋白とも相互作用することを示唆する。一方、FAD蛋白のみはこの経路に直接関与せず、これより下流あるいは独立した経路で作用することが示唆される。以上の結果は、FAA,FACをはじめとするFA貧血蛋白群の相互作用からなる生化学的経路の存在を示した。この経路は正常造血や染色体安定性に必要であり、その異常がFAの発症につながると考えられる。
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