分泌蛋白の一つであるアルファ2プラスミンインヒビター(α2-plasmin inhibitor、以下α2PIと略す)は、線溶系の重要な因子である。日本における一家系の異常は、1塩基の挿入によるフレームシフトにより、C末端の12個のミノ酸が178個の別のアミノ酸に置換される。変異分泌蛋白は粗面小胞体の膜を通過して、膜内に移行するが、粗面小胞体の内に留まる。今回の研究は、粗面小胞体を用いて、変異蛋白の分解メカニズムについて研究した。 1)コンストラクトの作製と粗面小胞体の分離精製 正常のα2PIのcDNA、そして、変異を導入したα2PIのcsDNA(α2PI-Nara)を、T7のプロモーターを上流に持つベクターpBlueScriptに挿入した。粗面小胞体の分離精製は、WalterおよびBlobelらの方法に従い、犬の膵臓より精製した。 2)mRNAの合成とin vitro translation T7のプロモーターを利用して、キャップが付いたmRNAを合成した。mRNAを、ウサギの網赤血球ライセ-トを用いたin vitro translationの系にて、翻訳を行い、蛋白合成させた。網赤血球ライセ-トに、^<35>S-メチオニン、アミノ酸混合物(メチオニン抜き)そして粗面小胞体を加え、25℃にて40分反応させた。40分の反応後、RNaseを添加して、蛋白合成を停止させ、移行した蛋白の分解について、時間経過を追ってみた。粗面小胞体を加えることにより、バンドが4本みられた。これは小胞体内に移行するときに、シグナルペプチドが切れ、内部で糖鎖の付加が行われていることを示している。作用時間を変えて変異蛋白の易分解性を検討してみると、正常蛋白ではバンドの濃さは変わらないが、変異蛋白では1-2時間以内に分解されることが確認された。 3)インヒビターの影響 変異蛋白(α2PI-Nara)の分解に関与しているプロテアーゼについて、セリンプロテアーゼのインヒビター(TRCKやTLCKなど)システインプロテアーゼのインヒビター(ALLNやALLMなど)を添加して、分解を抑制するかについては、現在検討中である。
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