BCL6はZinc finger型の転写因子をコードする遺伝子で、ヒトB細胞性悪性リンパ腫に高頻度にみられる染色体の3q27転座に伴い再構成を起す。転座はBCL6遺伝子の(非翻訳)第一エキソン・イントロン境界の限られた範囲に集中して起こり、第一エキソン及びその上流のプロモーター領域が切り取られ免疫グロブリン遺伝子等他の遺伝子に置換される。これに伴うBCL6遺伝子の発現異常がリンパ腫発症に関るものと考えられているが、詳細は明らかでない。一方興味深いことに、B細胞性リンパ腫においてこの領域は染色休転座以外にも欠失や点突然変異など多彩な異常を起こすことが知られている。すなわち、転座・欠失・点突然変異のいずれもが結果的にこの限られた領域の構造変化を来たすことになる。したがってこの領域の本来の機能を知ることは、リンパ腫におけるBCL6の発現異常の機序を理解する上で極めて重要である。私はB細胞株Rajiを用いたルシフェラーゼアッセイにより、BCL6遺伝子発現調節におけるこの領域の機能解析を行なった。 その結果、この領域の少なくとも二カ所にBCL6の発現を負に制御する領域が存在することが判明した。一つは第一エキソン内(+520 to +533)のエレメントであり、同部位の塩基配列にはBCL6タンパク自身が結合し得るモチーフが見い出された。さらにゲルシフトアッセイおよびBCL6発現ベクターを用いた共発現の実験から、BCL6遺伝子にはネガティブフィードバックによる発現調節機構が存在することが明かとなった。もう一つは第一イントロン内(+783 to +918)のエレメントであり、その機能はエレメントの位置、向き、およびプロモーターの種類に非依存性であり、いわゆる“サイレンサーエレメント"であると考えられた。ゲルシフトアッセイでは同部位にその塩基配列特異的に結合する核タンパクの存在が示唆された。以上の結果から、B細胞性リンパ腫において高頻度に変異が見られるBCL6遺伝子の第一エキソン・イントロン境界には遺伝子発現を負に制御する領域が存在しており、この領域が転座・欠失・点突然変異などにより構造変化を起こすことが、リンパ腫細胞におけるBCL6の発現異常に関与している可能性が考えられた。
|