我々は既に、レチノイン酸(RA)が特定の型の白血病細胞に対して、組織因子(TF)の発現低下、トロンボモジュリン(TM)の発現上昇を起こして、抗凝固効果を発揮することを報告した。ビタミンA誘導体(レチノイド)受容体にはRARとRXRがあり、それぞれ三種類のサブタイプがある。どの受容体が白血病細胞や血管内皮細胞のTF・TM発現調節に関与しているかを、各種新規合成レチノイドを用い検討した。また、TM遺伝子上のRA応答部位(RARE)と活性型ビタミンD^3(D^3)応答エレメントに類似性がみられることより、各種白血病細胞や臍帯静脈血管内皮細胞(HUVEC)、単球を用いてD^3の反応性の有無を検討した。TMのRAREを含んだプラスミドを単球性白血病細胞株やHUNVEC株に遺伝子導入し、all-transRA(ATRA)やD^3に対する転写活性の反応を調べた。RARαとRARβに結合し、RARγに結合しないAm80、RA結合蛋白に結合しないCh55、RARαに特異的に結合するRo40-6055の添加では、ATRAと同様の抗凝固効果をNB4(前骨髄球性)やU937(単球性)白血病細胞で認めた。RARαの特異的アンタゴニストRo41-5253は、ATRAやAm80によるTMの発現上昇をNB4、U937、HUVECで抑制した。一方、NB4でレチノイドのTF発現抑制を抑えるには、RARαとRARβ両者のアンタゴニストを要した。D^3やその誘導体は単球性白血病細胞や単球でレチノイドと同様の抗凝固効果を示した。TMのRAREは、単球性白血病細胞ではD3にも反応したが、HUVEC株では反応しなかった。血球細胞や血管内皮細胞では、レチノイドによるTMの発現上昇にはRARαが、TF発現低下にはRARαとRARβの両者が関与することが明らかになった。合成レチノイド、D^3やその誘導体は、病的細胞の向凝固活性をTFやTMの遺伝子転写レベルで変えで抗凝固作用を発揮し、新しい抗血栓薬として期待される。レチノイド及びD^3誘導体は、血栓症・悪性腫瘍の予防・治療に有効な薬剤として、広く国民の健康に寄与する可能性のある興味深い物質である。
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