研究概要 |
トロンボポイエチン(TPO)は血小板を直接活性化しないが他刺激による凝集および放出反応を亢進させることを既に明らかにしてきた。このことは、TPOのシグナルが凝集に至る血小板内のシグナルとクロストークを起こし亢進させていることを示唆した。そこで血小板内のMAPキナーゼ系に着目し、TPOの作用を検討したところ、MAPキナーゼカスケードのうちTPOはShc-Ras-Rafまで活性化するがその下流のMEK,ERKは活性化しないことを見出した。一方で、MEKとERKはトロンビン(Th)やホルボールエステル(PMA)によりプロテインキナーゼC(PKC)依存性に活性化されたが、この活性化はTPOによりいずれも亢進した。しかし、この時PKCの活性化自体は亢進しなかった。従ってTPOは主としてPKCに依存したMEKの活性化をPKCを介さずに亢進させることによりMAPキナーゼ系を亢進させることが明らかになった。MEKの阻害剤であるPD098059(PD)を用い、ThやPMAによる血小板凝集およびTPOによる亢進作用に及ぼすPDの影響をみたところ、PDはTh やPMAによる血小板凝集に影響を与えず、またTPOによる亢進作用にも影響しなかった。従って、TPOはMAPキナーゼ系とクロストークするものの、この作用は直接血小板凝集に関与しないと考えられた。MEKとERKは未刺激血小板では可溶画分に存在したが、血小板凝集時にはアクチン重合に依存して細胞骨格へと移行した。従って、TPOとMAPキナーゼ系とのクロストークはERKに制御される細胞骨格の機能に何らかの関わりを持つ可能性が示唆された。TPOのクロストークとその機能を明らかにする為、引きつづいてもう一つのMAPキナーゼファミリーであるp38MAPについても同様の検討をする予定である。
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