平成9年度までに経時的に集積した低悪性度(慢性型またはくすぶり型)ATLから急性転化した症例の腫瘍細胞を用いて、ATL多段階発癌の後期の悪性形質獲得における外来遺伝子human T-lymphotropic virus type-1(HTLV-1)と細胞性の癌抑制遺伝子の関連性につき検討した。 低悪性度ATLから急性転化した13症例で経時的にHTLV-1の組み込みにつき検討したところ、3例で組み込み部位が変化した。うち2例ではTCRβの再構成バンドも変化しており、これらの変化は低悪性度ATLの時期とは異なるATL細胞クローンが急性転化時に出現(clonal change)したことによると考えられた。残りの1例のTCRβ鎖の再構成バンドは同一サイズであり、clonal evolutionによることが示された。 急性転化した5症例では経時的にp15/p16の変異につき検討したところ、全例で低悪性度ATLの時期には変異は認めなかったが、急転後は3例でp15/p16が欠失した。この3例中2例でHTLV-1を検索したところ、それぞれ急転の前後で組み込み部位は不変であり、p15/p16の変異はclonal evolytionによることが示された。今回の検索では、急性転化に伴うRbの変異は認めなかった。 急性転化というATL後期の悪性形質獲得の一部において、clonal changeがおきたことは多くの自然発生癌の多段階発癌におけるクローン進展とは明らかに異なっており、免疫不全患者における免疫グロブリン遺伝子の再構成パターンによって証明された多クローン性Epstein Barr(EB)ウイルス関連Bリンパ腫に類似している。ウイルス発癌の特異性を示す現象として注目される。
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