研究概要 |
我々は慢性骨髄性白血病(CML)患者の血小板で正常血小板にはほとんど認められない39kDaのチロシン燐酸化蛋白が正常血小板に比して著明に存在していることを認め,この異常蛋白を癌遺伝子産物crkl(SH2,SH3アダプター蛋白)であることを証明し以前に報告済みである(Blood88:4303-4313,1996).我々のこの報告までcrklはいままで,血球細胞をサイトカインや造血因子により刺激しても全くチロシンリン酸化を受けず,CMLの病因に関連するチロシンリン酸化酵素bcr-ablの特異的な基質であるとされていた.われわれは正常血小板およびc-Mpl発現FDCP-2細胞においてトロンボポエチン刺激下にチロシンリン酸化されることと、このcrklが分子量約97kDaのチロシン燐酸化蛋白と結合することを認めた.平成9年度,われわれはこの分子量約97kDaの蛋白が転写因子Stat(Signal Transducers and Activators of Transcription)5であることを複数の特異抗体を用いて確認し,しかもこの現象がinterleukin 3(IL-3)やエリスロポエチンの情報伝達系においても認められることを証明した.有核細胞をTPO,IL-3,やエリスロポエチンにより刺激した際に,crklは活性化したStat5とともに核に移行することも認めた.GST-crklのtruncation mutantを作製しTPOをはじめとするサイトカイン刺激下におけるcrkl-Stat5複合体に関与するのがcrklのSH(src homology)2部位であり,STAT5のチロシンリン酸化を要することを証明した. また,これらの研究と並行して血小板においてVavが血小板特異的機序でチロシンリン酸化を受けること(Blood89:2789-2798,1997),またトロンビンがトロンボポエチンを切断することを証明し報告した(Proc Natl Acad Sci USA 94:4669-4674,1997).
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