研究概要 |
最近、巨核球増殖、分化誘導因子であるトロンボポエチン(TPO)のcDNAがクローニングされ、TPOにin vivo、in vitroにおける巨核球増殖促進、分化誘導、血小板数増多作用があることが判明している。われわれは主としてヒト血小板を用いて巨核球増殖、分化誘導因子であるトロンボポエチン(TPO)の情報伝達機構について解析を行い、国内外を通じて先駆的業績を挙げてきたが、本研究を通じてその成果を拡大した。 即ち、SH2,SH3アダプター蛋白が、ヒト血小板でもTPO依存性にチロシン燐酸化されるが、それとは別に、血小板特異的なカルシウムイオン濃度の上昇や蛋白キナーゼC活性化依存性にチロシン燐酸化されることを報告した。われわれは以前、慢性骨髄性白血病(CML)患者の血小板で正常血小板にはほとんど認められない39kDaのチロシン燐酸化蛋白が癌遺伝子産物crkl(SH2,SH3アダプター蛋白)であることを証明したが、本研究では、さらに正常血小板においてTPO刺激下にチロシン燐酸化された転写因子STAT5とSH2ドメインを介して結合することを証明した。また、crkl-Stat5の結合がIL-3、GM-CSF、エリスロポエチンなどによっても惹起されることも報告した。stat蛋白はチロシン燐酸化をうけて、homodimerないしはheterodimerを形成し、核に移行することが知られてるが、われわれはさらにゲルシフトアッセイで、crkl-STAT5複合体が核でDNAと結合する能力を保持していることを報告した。これはSH2,SH3アダプター蛋白としては全くあらたな報告であると同時にSTAT5-DNA複合体に他の蛋白が含有されているとする言う点からも注目に値する新知見である。さらにわれわれは正常細胞としてはじめて血小板Wiskott-Aldrich蛋白がコラーゲン刺激で強くTPOで弱くチロシン燐酸化されること、ならびにTPOの分解酵素としてトロンビンをはじめて同定した。 以上、本研究では当初の目的通り当該分野を国内外でリードする成果を挙げた。
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