研究概要 |
今回の研究課題の1年目の目標はほぼ達成されたと考える。血球細胞の分化と成熟が増殖刺激とのバランスの上で制御されていることを立証し,その知見を基に白血病に分化誘導療法の至適条件を確立することが本研究の主眼である。 まず,造血因子依存性細胞株MO7eを用いた実験系で,Steel Factor(SLF)+TPOまたはSLF+EPOとの同時刺激により,著しい細胞増殖刺激が得られるのに反して,巨核球系への分化は逆に抑制されることを発見した。また,マウス骨髄細胞の液体培養系においても,SLFとTPOを同時に同時添加により最終的な巨核球産生は増加するものの,巨核球への分化・成熟スピードがTPO単独と比較して有意に遅れ,また,ploidyの増加も遷延することが観察された。一方,低濃度のAra-Cで細胞増殖をmildに抑制すると,TPO単独刺激に比較して,巨核球系の分化がより増強する結果が得られた。 (Miyazawa K.et al.Cell Growth & Differentiation in press) 全く同様に,顆粒球の系でも,我々は,急性骨髄性白血病(AML)患者由来の芽球に,in vitroでG-CSFと低濃度のAra-Cとを同時に作用させることにより,G-CSF或いはAra-C単独と比較して顆粒球系への分化がより強力に誘導できることが観察し得た。この現象はマウスの白血病細胞株WEHI-3B細胞においても再現された。これらの結果も低濃度のAra-Cにより芽球の増殖を穏やかに抑えることで(高濃度ではアポトーシスを誘導する),G-CSFの増殖と分化のシグナルの内,前者が抑制された結果,相対的に分化刺激が優位となったためと説明できる(投稿準備中)。 以上の結果を踏まえて,次年度は細胞周期ならびに細胞内情報伝達分子の観点から検討を進める予定である。
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