研究概要 |
造血細胞の分化・成熟が増殖刺激との均衡の上で制御されていることを立証し,その知見を基に白血病細胞の分化誘導療法への検討を行った。 造血因子依存性巨核球系細胞株M07eにおいて,Steel Factor(SLF)+thrombopoietin(TPO)との同時刺激により,細胞増殖能を最大限に誘導することで,巨核球系分化抗原の発現がTPO単独刺激に比べて有意に低下した。逆に,低濃度のcyotsine arabinoside(Ara-C)+TPOとの同時添加培養によりTPOによる増殖刺激効果を緩徐に抑えることで,巨核球系への分化・成熟はTPO単独に比べて増強した。同様の現象は,正常マウス骨髄単核球をin vitroで培養した巨核球形成においても再現できた。さらに,マウス急性骨髄性白血病細胞株WEHI-3Bにおいても,G-CSF+Ara-Cとの同時添加培養により,G-CSF単独刺激に比較して顆粒球系への分化・成熟効果の増強が認められた。 そこで,実際の急性骨髄性白血病20症例の末梢血ならびに骨髄より白血病細胞を分離し,in vitroにてG-CSF(50ng/ml)または低濃度のAra-C(5-10ng/ml)およびG-CSF+Ara-C同時添加培養を行った。20症例中4例にG-CSFにより増殖刺激効果が得られ,興味深いことに,この4例全例がAra-Cを同時に作用させることで,細胞形態およびCD13,CD33等の分化抗原の発現増強が観察された。 以上の一連の結果より,G-CSF,TPO等の細胞系列特異性のサイトカイン刺激に低濃度のAra-Cを組み合わせ細胞増殖をマイルドに抑制する状況をつくり出すことで,白血病細胞の分化・成熟がより効率良く誘導されることが判明した。また,この効果は実際の白血病の分化誘導療法に応用できることが示唆された。
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