研究概要 |
本研究の目的は、IgA腎症患者のDNAを収集し、これを用いて発症、進行に関係する可能性のある遺伝子多型を解析し、疾患に関与する遺伝子を明らかにすることである。平成9年度は主に対象患者の血液サンプルの採取、DNA抽出、および分析すべき遺伝的多型についての実験条件の設定を行った。平成10年度には収集したDNAを用いて、各種の遺伝子多型についての検討を行なった。 1. IL-4 Receptor遺伝子多型 最近IL-4Rαサブユニットの遺伝子多型2種類(Gln576-Arg,Ile50-Val)がアトピー性疾患との関係で報告されたことから、IgA腎症との関係について検討した。その結果、前者の遺伝子多型において、発症年齢との明らかな関連かあることか明らかになった。すなわち、Arg576対立遺伝子を持ちIL-4Rの活性が高いと考えられる患者は、より若年(平均で6歳以上)で発症していた。IL-4RがIgA腎症の発症に関与している証拠と考えられ、重要な知見である。このデータの一部は1998年のアメリカ腎臓学会で一般演題として採択され、発表する機会を得た。 2. プラスミノーゲンAla 601-Thr突然変異 この変異はプラスミノーゲン活性を失うもので、ヘテロ接合の人のプラスミノーゲン活性は正常の50%であり、血栓症との関係も報告されている。上記の検体で検討したところ、数例のへテロ接合の患者を見出したが、腎機能予後との関係は明らかでなかった。 3. PAI-1プロモーター4G5G多型 プロモーターの多型により転写活性が異なり、虚血性心疾患や血栓症との関係が注目されている。上記の検体で検討したところ、5Gの頻度が患者群で有意に高いことが明らかとなった。しかし、一般にPAI-1の転写活性が高く、血栓症等と関係があると報告されているのは、4G型であり、これまでの報告と異なっている。このため今後さらに活性との関係を含め再検討していく。 以上、本研究は、ほぼ当初の目標は達成したと考えられ、次の段階に移るところに来ている。
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