本研究の目的は 1)腎集合尿細管水チャネル分子の細胞内局在に関する分子内シグナルの解明、と2)抗利尿ホルモンによるAQP2水チャネルの細胞膜への移送に関する分子内シグナルの解明、の2点であった。集合尿細管水チャネルは、細胞内局在が極めて特異的、分極的であることが特徴であり、当研究では、これら水チャネルのキメラ体を、上皮培養細胞に発現させ、その細胞内局在を調べ、タンパク構造と細胞内局在制御機構との関連を検討した。また、抗利尿ホルモンによるAQP2の細胞膜上へのエクソサイトーシスに、cAMP依存性キナーゼによるチャネルのリン酸化が関与することが明らかとなり、さらに、AQP2リン酸化部位付近の分子構造と、抗利尿ホルモンによるチャネル移送機構との関連を検討した。 AQP2、AQP3水チャネルの分子構造をもとに、遺伝子組換えの手法を用いて、水チャネルの細胞内局在シグナルの構造と機能との関連を検討したところ、選択的水透過性を決定する立体分子機溝の解明が進んだ。具体的には膜貫通部を結ぶ5つの親水性ループの内の第3番目と第4番目の2つのループが選択的水透過性の決定部位ではないかと推察された。一方、最近明らかとなった腎性尿崩症を引き起こす4種のAQP2変異体TI26M、Al47T、Rl87C、S216Pの細胞内局在と機能をLLC-PKl細胞を使って検討したところ、Al47Tは細胞膜上への発現過程はWTと同じであるが、機能の低下した水チャンネルであることが示され、T126M、Rl87CとS216Pは粗面小胞体にとどまっており、細胞膜上への発現の過程の異常があることが示唆された。これらの知見からAl47T付近の構造は細胞内局在への影響を与えない反面、水透過性に影響を与えることが示され、AQP2分子内に、細胞内局在および水透過孔の形成に関与する部位がそれぞれ独立して存在すると考えられた。AQP2リン酸化部位付近の分子構造とチャネルエクソサイトーシスの関連は引き続き検討する必要があると考えられた。
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