本研究ではこれまでの糸球体発生についての研究をもとに、形成後の糸球体構築の維持・修復の機序を、VEGFを中心として分子レベルで明らかにすることを目的としました。 まずマウス成獣において内因性VEGFを抑制することにより、それが糸球体の構築の維持に果たす役割を解析しました。補体第5成分を欠損したマウス成獣に抗VEGF中和抗体を3日間投与し、腎の形態学的変化を免疫染色やTunel法を含めて組織学的に検討するとともに、腎血管の鋳型標本を作り糸球体毛細血管網の変化を三次元的に観察しました。抗体投与により糸球体内皮細胞は空胞変性・膨化し、糸球体係蹄内腔は著しく狭小化しました。糸球体の細胞にはアポトーシスの増加はみられませんでした。この結果からVEGFは恒常的に糸球体内皮細胞を刺激し、その維持と機能の遂行に重要な役割を果たすと考えられました。 つぎにヒト腎炎において、組織でのVEGF発現と、血清、血漿、尿中のVEGF濃度をELISA法で測定しました。VEGFは糸球体上皮細胞と尿細管上皮細胞に発現しており、その尿中排泄量は腎機能が低下するにつれて増加しました。血清および血漿VEGF濃度は腎機能に左右されず、尿への排泄量は腎からの分泌を反映すると考えられました。このことからVEGFが傷害腎で、組織の修復や機能の代償にはたらくと推測されました。 さらに実験腎炎を用いて、糸球体傷害の発生と進展に対するVEGFの役割を調べました。抗Thy1抗体をラットに投与し、糸球体メサンギウム細胞の融解と内皮細胞傷害をともなう腎炎を作成しました。リコンビナントVEGFを抗体の前に投与することにより、内皮細胞傷害は抑制されました。この結果からVEGFは、糸球体内皮細胞を各種のストレスから防御する分子であることがわかりました。 以上の結果からVEGFは糸球体内皮細胞を刺激し、その構築と機能を維持する分子であることがわかりました。
|