高血圧は食塩に対する昇圧性により食塩感受性群と非食塩感受性群に分類されるが、食塩感受性群の昇圧の詳細な機序は明らかにされていない。従来より食塩感受性高血圧のモデルとしてLiddle症候群が知られており、Liddle症候群の遺伝子解析によりアミロライド感受性上皮型Naチャネル(hENaC)の遺伝子異常が近年報告された。 私たちは、臨床的にLiddle症候群と診断された発端者とその家系4例を経験した。正常コントロールを含め11例の白血球よりgenomicDNAを抽出し、hENaCのβおよびγサブユニットをPCR増幅後、direct sequencingを行った。発端者とその家系4例中3例にβサブユニットの615番目のProがSerに変わる新しいミスセンス変異(P615S)を見いだした。hENaCのa、β、γサブユニットそれぞれを含む3種のプラスミドcDNAはDr.Welsh(米国)から入手し、βサブユニットプラスミドcDNAにP615Sミスセンス変異をサブクローニングした。野生型あるいは変異型チャネルを再構成するためにプラスミドcDNAをアフリカツメガエルの卵母細胞の核内に注入した。変異型は野生型に比べ3.1倍のアミロライド感受性Na電流を認め、P615Sミスセンス変異がhENaCの機能亢進を起こすことを確認した。以上より、今回新たに同定されたP615SはLiddle症候群の原因遺伝子のひとつであることを証明した。 この結果もβサブユニットのC端側のPro rich sequenceがhENaCの機能亢進に重要であることを示唆しており、この領域の変異と他の食塩感受性高血圧との関連に対して研究を進め、食塩感受性群の昇圧の機序を明らかにしていく必要があると考えられる。
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